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名古屋都市圏の交通政策のキーワード「先進的モビリティ」について.
名古屋のまちと交通の特長 |
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「道路」と「交通」から見た名古屋のまちの特長について.
【区画整理事業によるまちづくり】
名古屋市は戦前から戦後を通じ,主に土地区画整理事業などを中心とした,官主導の面的な市街地整備が行われてきました.
現在の名古屋市域のうち約70%は区画整理区域内であり,整然とした街並みとなっています.
その結果,官民関係は比較的良好であり,まちの骨格を形成する道路網や公園等の都市基盤が高い水準で整備され,良好な住環境が整っています.
その反面,官任せの陳情体質で住民の自治意識は低く,自発的なまちづくりに関する取り組みは少ないです. 整然とした街並みも無機質に感じられ,面白みに欠けた街であると評されることもあります.
【広い道路空間と自動車交通】
戦災復興計画や区画整理事業では,100m道路をはじめとした道路拡幅や車線増加など,自動車利用を中心とした道路整備が行われてきました.
名古屋市の全市平均の道路率は,政令市で一番高い約18%となっており,豊かな道路基盤が整備されています.
特に都心部である中区における道路率は約33%と,非常に高い水準となっています.
その結果,自動車で容易に都心までアクセスできるなど,自動車交通の円滑化に寄与しています.
名古屋の住みやすさの理由の一つとして,都心まで自動車で行けることを挙げる方も大勢います.
その反面,必要以上に自動車交通量の増加を招く結果となりました.
代表的な指標として,三大都市圏の代表交通手段割合があります.
名古屋市における代表交通手段割合については,東京都区部や大阪市と比べ、自動車利用は非常に高く,公共交通(鉄道・バス)利用は低くなっており,自動車利用に依存している状態です.
前述の通り,名古屋市は高い水準の住環境と道路環境を有しています.
また鉄道も,地下鉄をはじめ基幹バスやガイドウェイバスという他都市では見られない先進的な交通システムも導入され,公共交通機関の整備が積極的に進められてきました.
その結果,(東京や大阪と比較すると貧弱な鉄道網ではありますが,)昼間人口あたりの鉄道延長は,東京や大阪を上回る高い水準に達しています.
また,市バスも市域全域に路線網が張り巡らされており,公共交通勢圏における人口カバー率は約98%となっています.
交通を取り巻く環境の変化 |
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【人口減少・少子高齢化】
日本の人口が減少に向かっている中,常住人口が増加している名古屋市においても,令和5年から人口は減少に転じる見込みです.
少子高齢化は全国共通の課題です.
一方,年齢別の人口1人当たりトリップ数の推移をみると,若年層が減少傾向にある中で,高齢者は増加傾向にあります.
今後さらに増えていく「活発に動きたい高齢者」のニーズに応じた公共交通網としていく必要があります.
【脱炭素社会】
「カーボンニュートラル」への取り組みが必須となっています.
名古屋市の部門別1人当たり二酸化炭素排出量は,大都市平均と比較すると総量は低いものの,運輸部門においては7割も高く,自動車利用等による CO2の排出量を減らしていく必要があります.
【リニア・インパクト】
リニア中央新幹線の全線開業により東京・名古屋・大阪の三大都市圏が約1時間で結ばれることでスーパー・メガリージョンが形成され,約7,000万人の交流圏が生まれます.
その中心に位置している名古屋は,より一層の飛躍を遂げるチャンスであると言われていますが,ともすれば東京・大阪の二大都市圏に埋没し,衛星都市のひとつに成り下がる可能性も大いにあります.
巨大化した二大都市圏に埋没しないよう,リニアインパクト(交流人口増加など)の効果を名古屋駅周辺に留めるのではなく,公共交通が街の血液・潤滑油として,人やモノの流れを,市域全体から圏域へと,広げていく役割を果たす必要があります.
【自動運転技術の進展】
自動運転技術が進展し,近い将来,社会実装が行われようとしています.
公共交通の分野においても,人口減少の中で,運行の効率化や利便性の観点から,自動運転技術の活用が期待されます.
これまでの先進的モビリティ |
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名古屋市域の公共交通整備の特長として,様々な交通課題への対応にあたっては,官主導のまちづくり,財政力,広い道路環境を背景とした,他都市にはない(当時の)先進的な取組みが行われる傾向にあります.
これまでに実用化された,全国初となる取組みは次の通りです.
BRTや磁気浮上式など,従来の交通機関とは異なる機能や特性を持つ新交通システムが実装されており,名古屋市とその周辺は「モビリティ・ミュージアム」状態です.

基幹バス BRTに近い要素を持った市独自のバス交通. 中央走行方式(基幹2号:1985年運行開始) |

ガイドウェイバス 高架専用軌道を走る市独自のバス交通. ガイドウェイシステム(2001年開業) |

地下鉄名城線 名古屋市における基幹的公共交通機関. 地下鉄環状運転(2004年環状化) |

リニモ(Linimo) 日本唯一の磁気浮上式リニアモーターカー. 常設実用路線(2005年開業) |
これからの先進的モビリティ「最先端モビリティ都市」 |
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名古屋市の特長である豊かな交通インフラを有効活用することに加え,人口構造の変化,自動運転など革新的な先進技術の登場,パーソナルモビリティなど移動手段の多様化を踏まえ,名古屋市では次の理念を掲げ,「最先端モビリティ都市」を目指す方針を掲げています.
【基本理念】
持続可能な都市の発展に向けて,まちづくりと連携した誰もが移動しやすい総合交通体系を形成する.
【最先端モビリティ都市とは】
名古屋大都市圏における中枢都市として,既存ストックと先進技術の活用により,リニア中央新幹線とシームレスにつながる持続可能で質の高い公共交通ネットワークが形成されるとともに,更なる技術の活用による快適でスマートな移動環境が実現した都市.
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実現に向けた4つの展開と早急に実施する重点的な取組み |
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(1)リニア開業に向けた広域交通環境の形成
【考え方】 乗り換え円滑化や二次交通の高度化によりリニアインパクトを市内全域に波及させる.
【重点的な取組み】 (1-2)名古屋駅周辺における交通機能の強化 (市の所管/住宅都市局・交通局)
(1-2)回遊性を高めるための新たな路面公共交通システム(SRT)の導入. (市の所管/住宅都市局)
 ▲名古屋駅の整備 名古屋市「駅前広場の再整備プラン」より →名古屋駅周辺の交通機能の強化 →乗り換え円滑化 |
 ▲SRT構想 名古屋市「SRT構想」より →新たな路面公共交通システムの導入 |
 ▲高速道路整備(新洲崎JCT模型) →広域交通ネットワークの早期形成 |
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(2)持続可能な公共交通ネットワークの形成
【考え方】 リニアインパクトを取り込み,需要の高い路線でしっかり収益を上げるとともに,基幹的な公共交通への自動運転技術の実装により,新しい生活様式下でも公共交通の持続性を確保していく.
【重点的な取組み】 (2-1)ガイドウェイバスへの自動運転技術の実装を契機とした需要の高い基幹的公共交通の機能強化 (市の所管/住宅都市局・交通局)
(2-2)地域公共交通計画の策定 (市の所管/住宅都市局)
 ▲ガイドウェイバス自動運転技術実装 →基幹的公共交通の機能強化 →公共交通の経営改善 |
 ▲MaaS(国土交通省ウェブサイトより) →移動利便性の向上 |
(3)まちづくりと連携した多様な道路空間の形成
【考え方】 名古屋の特徴である豊かな道路空間を活かし,沿道界隈活性化の取組と一体となって歩いて楽しい都市空間を実現するとともに,インフラ側での自動運転への対応を進める.
【重点的な取組み】 (3-1)沿道・界隈と連携した歩きたくなる都市空間による賑わいの創出 (市の所管/住宅都市局・緑政土木局)
(3-2)自動運転社会を見据えたインフラ側での対応. (市の所管/住宅都市局)
 ▲自動運転 →自動運転社会を見据えた道路空間構築 |
▲歩いて楽しい都市空間 →人中心・公共交通優先の道路 →道路空間の利活用・再配分 |
(4)地域のニーズに応じた移動環境の形成
【考え方】 公共交通ネットワークの持続性を維持するために,公共交通空白地域の移動手段の確保を図る.
【重点的な取組み】
(4-1)ラストマイルを担う移動手段などについて考える地域主体のまちづくりの推進.
(既存の地域まちづくりサポート制度と連携した交通支援制度の構築)
(市の所管/健康福祉局・住宅都市局)
(4-2)公共交通空白地(※)への移動手段の導入.
(市の所管/健康福祉局・住宅都市局)

▲パーソナルモビリティ →ラストワンマイル |

▲グリーンスローモビリティ |
▲デマンド交通 →公共交通空白地の移動手段 |
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(※)令和5年現在,市が定義する公共交通空白地は,市内9区の23学区にあります.
参考文献 |
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当ページの内容は,次の資料をベースに,私見を加えて執筆しています.
→「名古屋交通戦略2030」ー最先端モビリティ都市の実現に向けてー 名古屋市交通問題調査会(令和4年2月答申)
→「名古屋交通計画2030」ー最先端モビリティ都市の実現に向けてー 名古屋市住宅都市局交通企画課(令和5年3月)
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