名古屋市における地下鉄新線計画の現状について紹介します
都市計画決定済みの「都市高速鉄道」 |
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鉄道・軌道は都市交通の骨格をなすもので,国の運輸政策審議会の答申などを踏まえて,名古屋市において「都市高速鉄道」として都市計画を定めた後に具体的な事業に着手します.
名古屋市では,平成27年現在,地下鉄や新交通システム,連続立体交差事業の区間などを含め,16路線約139.81kmを都市計画決定しています.
名古屋市「都市計画(市政情報)」 |
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地下鉄については,昭和32年11月に東山線の名古屋から栄町間で営業を開始し,順次路線を延長してきました.
平成23年3月には桜通線が徳重まで延伸され,現在は6路線約93.3kmが営業しています.
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表1 都市計画決定一覧「都市高速鉄道」 |
名 称 |
延長 |
最終変更年月日 |
現状 |
名古屋市高速度鉄道第1号線 |
21.14km |
昭和53年3月31日 |
開業済み |
名古屋市高速度鉄道第2号線 |
15.10km |
平成22年12月24日 |
開業済み |
名古屋市高速度鉄道第3号線 |
20.91km |
昭和55年12月26日 |
開業済み |
名古屋市高速度鉄道第4号線 |
16.91km |
平成17年8月16日 |
開業済み |
高速度鉄道第5号線八熊線 |
7.30km |
昭和42年12月28日 |
未着手 |
名古屋市高速度鉄道第6号線 |
19.91km |
平成17年8月16日 |
開業済み |
上飯田連絡線 |
3.29km |
平成8年3月15日 |
開業済み |
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表1は,平成27年現在,都市計画決定されている「都市高速鉄道」のうち,地下鉄に関係する路線を抽出したものです.
例えば,「高速度鉄道第1号線」について見てみると,昭和53年に最終変更が行われ,最後の区間である中村公園〜高畑間の建設に着手し,昭和57年に開業し全線開通しています.
このようにして,都市計画決定されたのち,各路線の整備が行われてきました.
【補足】
※高速度鉄道第2号線の平成22年の変更は元名城工場の廃止によるもの
※上飯田連絡線=地下鉄上飯田線と名鉄小牧線の一部
表1中,都市計画決定済みにもかかわらず,唯一未着手の路線が「高速度鉄道第5号線八熊線」(通称5号線)です.
5号線は歴史ある計画路線で,現在の地下鉄網の原型となった昭和36年の審議会答申で金山から先で2号線(大曽根〜金山〜名古屋港)と分かれ,近鉄の伏屋へ向かう路線として示されました.
その後の昭和47年審議会答申においても,ほぼ同ルートで答申されています.
市の都市計画においても,早い段階で2号線の金山から分岐し,住宅地の下をくぐり抜けながら進路を西へ向け,市道八熊線と平行して西へ向かい,1号線の野田町(高畑付近)を経由し,近鉄の伏屋付近へ向かう路線として決定されました.
つまり,当時(昭和40年代)の名古屋市としては将来的に第5号線の建設に着手する意思があったものと思われます.
しかしながら,従来の計画を大幅に見直した平成4年の審議会答申では第5号線の計画が消滅し,「市交金山線」と名称を改め,戸田〜金山〜丸田町〜黒川を結ぶ路線として再定義されました.
しかも残念なことに,答申ランクは整備の推進を図ることが妥当とされる「B」となってしまいました.

▲都計5号線と答申金山線のルート比較 |
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では審議会答申の変更を受け,都市計画決定はどうなったかというと・・・現在に至るまで何も変わらず.
昭和42年当時のまま,名称もルート設定も「放置」されている状態です.
一度決定した都市計画を変更するということは大変な作業で,廃止となると尚更です.
例えば,都計が掛かる土地には建築制限等の制約が課されます.地下鉄新線という大義のために制約を受け続けてきた住民のハシゴを今更外すことができるのか.新線建設を決して諦めない市議会をどう納得させるのか.課題は山積みです.
蜂の巣をつつくことになる都計廃止手続きなど以ての外.「新ルートで建設する」と揺るぎない意思を固めた上での都計変更手続きを開始するその日まで,「寝た子を起こさない」ことが現実的です.
平成4年の審議会答申で示された地下鉄路線のうち,未完成の路線は4路線ありますが,ランクBで放置状態の高速度鉄道第5号線八熊線以外で都市計画決定されている路線は一つもありません.
つまり名古屋市としては地下鉄新路線を建設する意思は「無い」ことを示しています.
交通局の現状と将来計画 |
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国の計画において新規鉄道路線計画が事実上消滅し,名古屋市住宅都市局が担当する都市計画でも「放置状態」となっている名古屋の地下鉄新線計画ですが,建設主体&運営主体となるであろう市交通局でも「棚上げ状態」となっています.
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平成22(2010)年策定 「市営交通事業経営健全化計画」 |
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交通局では黒字営業を続けているものの,莫大な累積欠損金を抱えていることから,大規模な投資が必要となる新線建設には慎重な立場で,平成22(2010)年3月に策定された「市営交通事業経営健全化計画」(計画期間は平成21年度〜平成28年度まで)において,原案の段階では「地下鉄の新線建設の休止」とする方針が当初掲げられました.
これは後に新線建設を諦めきれない市議会によって「新線建設は慎重に見極める」と表現を変更させられ,事実上の「棚上げ状態」となりました.
これにより,昭和29年から続いた名古屋の地下鉄建設が平成23年の桜通線延伸を最後に無くなりました.
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平成27(2015)年策定 「名古屋市営交通事業経営計画(2015-2018)」 |
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平成27(2015)年11月に策定された「名古屋市営交通事業経営計画(2015-2018)」においても,同様の表現がなされています.
「本計画は、現行の市バス・地下鉄路線網を維持・運営していくために策定するものであり、地下鉄新線建設については計画上見込んでいません。今後、新線建設を検討するにあたっては、営業路線の運営に支障をきたすことのないよう、社会経済情勢の動向、需要および採算性について、慎重に見極める必要があります。」 |
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平成31(2019)年策定 「名古屋市営交通事業経営計画2023」 |
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平成31(2019)年3月に策定された「名古屋市営交通事業経営計画2023」では,本文から新線に関する記述が消えました.
ただ,新線に対する市民の期待の声は少なからずあるようで,パブリックコメントでは新線に関連する意見が26件(賛成反対含む)寄せられました.
これに対し当局は,「多額の累積欠損金等を抱えている状況の中,ホーム柵や耐震に加え,リニューアルを進めるなどこれまで以上に多額な投資が必要となる.また,市内で鉄道需要の大幅な増加が見込めるような状況にない一方で,新線建設によって経営状態の悪化が懸念される.このことから,新線建設を行うような状況にはない.」と回答しています.
今後は,第三セクターなどの交通局以外の建設主体が,環境対策に主眼を置いた政策的な新路線建設を行うなど,従来の地下鉄建設とは全く異なるスキームを作らない限り,”地下鉄”新路線の建設はないものと思われます. |
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令和6(2024)年策定 「名古屋市営交通事業経営計画2028」 |
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令和6(2024)年3月に策定された「名古屋市営交通事業経営計画2028」においても,同様に新線に関する記述はありません.
パブリックコメントにおける新線に関連する意見に対しては,当局は「今後の地下鉄建設については,新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機とした乗車人員の減少やエネルギー価格の高騰などにより地下鉄事業は非常に厳しい経営状況となっており,営業路線の運営に支障をきたすことのないよう,社会・経済情勢,需要及び採算性について,慎重に見極める必要がある.」と回答しています. |
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